ジラール・ペルゴのヴィンテージ1945のオーバーホールご依頼です。同ブランドの往年の人気モデルであったレクタンギューラー・ケースを、現代バージョンにアレンジして復刻したシリーズです。
ジラール・ペルゴ ヴィンテージ1945
分解前の歩度測定から。振りもしっかり平姿勢で280°をマークしており、各姿勢ともやや進みではあるものの問題は特にみられません。
ところが裏蓋を開けて中をみていくと、矢印の切替車のホゾ周囲になにやら赤い粉がはみ出しております。これは嫌な予感がしますねぇ。
受けを取り外したところ案の定、ホゾに赤サビが生じておりました。タイムグラファーの歩度測定だけではこういった所までは見えてきません。そのため見積もりは必ず中を分解してパーツの状態を確認します。
幸い今回はサビ取り&パーツ補修で再利用可能な程度であったため、当工房にてお引き受けいたしました。実用できると思われる性能は出ており、「ちゃんと動いているからまだいいや」と思ってお使いになり続ける方は多いです。今回は早めのメンテナンスにお出しいただいたのが幸いしました。
こちらは切替車に隣接する中間車です。切替車から生じたサビの粉が伝染していましたが、こちらもごく初期段階だったためキレイに落とすことができました。
これが時計が止まったり調子がおかしくなった時にはすでに手遅れで、補修では間に合わずパーツ交換が必要となります。そうなると当工房では手に入らないパーツですから、正規ブティックなどで修理していただくことになります。
すべてのパーツの分解と洗浄が済み、パーツケースに入れたところ。
地板にバランスを組んで、ひげぜんまいなどの調整を行います。こちらは冒頭の測定でも問題がなかった通り、今回はとくに修正が必要と思われるところは見つかりませんでした。
巻き上げ機構のパーツ群をならべてみたところ。通常のメンズ用のムーブメントと比べると小さく、レディース用のものと同じくらいです。それでいて、細部まで丁寧なつくりです。
こういうサイズ感です。うっかり弾き飛ばしたら、もう見つかりません。
これらのパーツを地板に組んでいきます。高級ブランドのモデルほど、パーツを小さく作る傾向があります。必然的に腕が良い技術者でなければ満足な整備ができません。
代わって輪列側を組んでいくようす。華美というほどではないものの、細かな部分まで丁寧に仕上げされ、好感がもてます。
輪列受けを組んでいきます。ネジの頭にご注目ください。技量の低い職人はネジの頭をすぐ痛めます。きちんと溝に合った工具で作業すれば、そうそう痛むものではありません。アトリエ・ドゥでは同じムーブメントを繰り返し整備しても、そのことを感じさせないような、いつまでも新品のときのままの姿を維持することに努めております。
アンクルと受けまで組んだところです。ツメ石とガンギ歯のかみ合い量などのチェックと調整を行います。
見やすく調整のしやすいパーツの配置です。今回はとくに問題がなくこのまま進みますが、何か問題があった場合でもこういう作りであれば作業がはかどります。上面受けの切り欠けカーブの実用性とデザインセンスが巧みにマッチしています。
ベースムーブメントが組み上がりました。自動巻の機構と輪列を一段にまとめて薄さを実現しつつも、見栄えの考慮された美しい機械です。
ベースムーブメントの測定。平姿勢をピッタリゼロに合わせすぎたため、縦姿勢で遅れの見られる姿勢がありますが、おおむね歩度はそろっており順調です。のちほど修正しつつ次へ進みます。
文字盤と針をつけていきます。文字盤のアールが強いものの、カレンダー窓などはじょうずな曲線で切り取ってあるため、視認性を損ねることなく、デザインがうまくなされています。
スモールセコンドは立体的な段差をつくり、さらに上面共々ギョーシェ模様を彫り込んであります。一見シンプルでかつての文字盤の意匠を踏襲したように見せつつも、単なる古典リバイバルではなく、現代的な造形美と技術をあわせて再創造されたものとなっています。
最終特性
左上)文字盤上 振り角 301° 歩度 +001 sec/day
右上)文字盤下 振り角 305° 歩度 +005 sec/day
左下1) 3時下 振り角 267° 歩度 +007 sec/day
左下2)12時下 振り角 262° 歩度 +002 sec/day
右下3) 3時上 振り角 273° 歩度 +002 sec/day
右下4)12時上 振り角 263° 歩度 +006 sec/day
実施コース:【 オーバーホールコース 】