タグ・ホイヤーのカレラのオーバーホールと外装研磨サービスのご依頼です。クロノグラフのケースは構造が複雑なため、現在は外装研磨サービスをご提供しておりません。過去の修理事例となります。
タグ・ホイヤー カレラ
分解前の歩度測定から。新品でご購入から8年経過で、まだ一度もメンテナンスに出していないとのこと。250°とまずまず振っており、歩度も各姿勢で揃っています。少しビートエラーが出てきていますが、典型的な油切れでオーバーホールの頃合いです。
研磨するためにはプッシャーやベゼルなども全部取り外す必要がありますが、経年の劣化により再利用しようとすると防水不良になったりするため、プッシャーなどは新しいパーツに交換が必要になることがあります。パーツは高額です。見積もりもパーツ代金だけで、オーバーホール費用よりも高くなりました。あんまり現実的でないので全くおすすめしておりません。それでも進行お願いしますとのことでお引き受けしました。
ケースを分解していきます。プッシャーステムなどは細いため、プッシャーボタンを少し何かにぶつけただけでも容易に曲がりやすく、取りはずそうとしてもドライバーで回せなかったりします。だいたいスポーツモデルなど元気の良い男の子がガシガシ使っております。そういうものを「研磨してくれ」とやって来ます。新品を分解するのとは訳がちがいます。変形したステムを無理に取り外そうとしたり、真っ直ぐにしようとすると折れたりします。当然ながらそれはもう再利用できません。そういうリスクに備えて、プッシャーはまるごと全部交換として見積もりせざる得ないのです。
内部ムーブメントもすべて分解したところ。
パーツの洗浄が完了して、パーツケースにおさめます。
ベースムーブメントを組んでいきます。お申し出の通り、過去に整備された痕がどこにもなく、パーツの状態は非常によいです。
ベースムーブメントの測定。まだ新しい機械ですから元気です。軽々と300°をクリアして、歩度も各姿勢でよく揃っています。
つづいてクロノグラフ機構の組み上げに進みます。ご覧の通り、こちらもパーツはピカピカで、まるで新品のようです。定期的にメンテナンスを行えば、いつまでも中身の機械はキレイに保てます。もちろん、それが長く時計をお使いになれるコツです。
カレンダー機構も組んで、文字盤と剣付けへと順調に進みます。
ケース本体も研磨を行なって、ピカピカになりました。
ベゼルを取り付け直しているところ。外装研磨をするのは、工場で新品を組み上げるのと同じ工程を経る必要があります。汎用の設備ですべての時計に対応しますので、技術力が必要です。工場のように専用マシンやロボットなどありません。簡単にお考えになる方が多いのですが、実は大変な手間と労力がかかっております。
ケーシングをするようす。ケース洗浄のみと違い、研磨したものは少しのキズやわずかな汚れなども目立ってしまうため、ビニールなどで養生しながら行います。神経をとても使います。それでもどうしても組み立て痕が出てしまい、部分的に再研磨が必要になったりします。外装研磨は正直とても疲れます。喜んでいただければ報われます。ケチでもつけられた日にはショックで寝込みます。
最終特性 全巻き クロノグラフON
左上)文字盤上 振り角 297° 歩度 +000 sec/day
右上)文字盤下 振り角 289° 歩度 +005 sec/day
左下1) 3時下 振り角 269° 歩度 +010 sec/day
左下2)12時下 振り角 268° 歩度 +003 sec/day
右下3) 3時上 振り角 264° 歩度 +006 sec/day
右下4)12時上 振り角 270° 歩度 +009 sec/day
クロノグラフ機構がつくと、ベースのみより振り角は落ちやすく、歩度も開きがでます。今回は300°近くをキープしており、歩度も全姿勢で0〜10秒以内に入っており、合格と思います。
研磨前(左)研磨後(右)
研磨前(上)研磨後(下)
完成
今回の該当コース:【 すべておまかせコース 】